「前編<失われた温泉街>天人峡温泉」の続きです。
ラム肉食べ太郎、前置き語る(どうでも良かったら飛ばして下さい)
そして誰もいなくなった、ホテル従業員の寮
前回記事「前編<失われた温泉街>天人峡温泉」(こちら)の続きです。
「輝きを取り戻す温泉街」と銘打ちながらも廃墟の紹介から始めるのはタイトル詐欺と思われるかも知れませんが、前編で載せ切れなかった分をもう少しだけ…
恐らく近郊のホテルの従業員が暮らしていた寮と思われる建物がありましたが、錆びた金属の階段に乗った雪が、少なくとも冬将軍以外の来訪が直近にはなかった事を教えてくれました。
ホテル郡の経営の撤退と共に、ここで暮らす従業員も立ち去ってしまったのでしょう。
階段の錆も穴が空くほどでもなく、建物自体もまだしっかりしているように見えますが、開け放たれたままの入り口や窓から伝わる空気に含まれるのは、ホコリ臭さと沈黙だけです。
入り口には寮の掟が掲げられています(当たり前の事ばかりです)。
残された黒板には、週替りで掃除か何かの当番者が記載されていたようです。
しかし当番者のいなくなった今は、散らかり放題の荒れ放題でした。
物がいくつも残されているだけに余計廃墟感が引き立てられます。
招かれざる訪問者である私は、この先には足を踏み入れていませんが、各部屋にも生活の跡が残されていたりするのでしょうか。
天△峡×◇待合所
この待合所を利用する人が果たして存在するのかは分かりませんが、入り口に鍵は掛かってなく、雨風を凌ぐ事は出来そうでした。
小屋の中には、ボロボロになった釘の飛び出た案内看板やらダンボールが「保管」されていて、行方不明者の心当たり尋ねる張り紙が壁にありました。
そして他には、容赦なく侵入して来る冷気があるばかりです。
人々が並び、バスやタクシーが頻繁に乗り入れていた時代も確かにあったのでしょう。
しかし今では公共機関としてのバスはありませんし、タクシーが客待ちで停まっている事もないのです。
道標の先へ
初めて訪れる観光地で良く参考にしているのは現地の案内看板です。
しかし古い案内看板に示された過去は、今では役に立たない事ばかりで、想像と憧ればかりを助長します。
大抵の場合はそこには今も未来もなく、ただ過ぎてしまった歳月の長さを実感させて来るのです。
この魅力溢れる「天人峡案内図」も現在においてはほとんど役立ちません。
「敷島の滝」へと続く道は土砂崩れで埋まっていますし、「天人峡神社」や「三吉神社」も少なくとも私の視界には現れませんでしたし、経営中の唯一のホテル「御やどしきしま荘」も載っていません。
ただし「羽衣の滝」に関しては、歩道が整備され、新しい案内看板もありました。
「北海道一の飛瀑 羽衣の滝 この先500m」
少々読み辛くなった古い道標の下に、かなり最近になって取り付けられたと思われる案内看板が付いていて、英語の説明書きまでありました。
コロナ禍の影響で事実上停止してしまっていますが、資源のない日本は現在では観光立国を目指していて、特に北海道ではその傾向が顕著に見られます。
羽衣の滝もその活動の一環として「日本遺産シリーズ」に含まれています。
日本遺産 ポータルサイト(公式)
そのため公共事業として羽幌の滝に向かう遊歩道も整備されたのでしょう。
しかし、私ラム肉食べ太郎は、この取り組みが上手く行くとは到底思えません。
文化庁の目指すところとしては、良いことが書いてありますし賛同もします。
文化庁(公式)
簡単にまとめると「歴史的背景の元に文化庁がその価値を日本遺産として認定し、認知度を高めますので、それをきっかけに自治体で人を呼び込む努力をして下さいね。」と言うものです。
しかし、まずこの文化庁のポータルサイトの中身が恐ろしくつまらないのです。
ひたすら真面目に歴史的背景を短い文章で濃縮して書いているだけなので非常に読み辛く、現在の生きた情報もなければ、写真も少なくて、関連情報への広がりが全く見られません。
結局のところ、天人峡温泉は現在ではとっくに見捨てられた廃墟があるばかりの過疎地であり、羽衣の滝においても所詮ただの風景を「歴史的に価値のある場所です。」と紹介したところで、わざわざ行こうとは思われないでしょう。
ホテル群が潰れ、廃墟ばかりとなってしまった今は何をするにも遅過ぎるのです。
文化庁が価値を認定しようとも、自治体がインフラを整備しようとも、持続可能な雇用が生まれ得る方法で観光地化しなければ、そこに発展はないと考えます。
まずは地元の人々が大切に思える場所にするべきなのです。
そもそも資本主義と言うのは、右肩上がりの経済活動を前提として成り立っているので、羽衣の滝に続く遊歩道の整備のように公共事業を税金で地元の業者に単発発注する事で地域経済を潤わそうとするやり方は共産主義的な方法であり、前提が間違っているのです。
まずは雇用と金を生み出す仕組みを作り、それからやっと羽衣の滝を見に訪れる人を効率よく安全に循環させるために、つまりは更なる経済活動への投資として道路整備を行うべきなのです。
近いうちに例えばホテル「天人閣」の再建などを通じて経済活動が生まれ、単に「日本遺産である羽衣の滝がある場所です。」で終わらない事を切に願います。
羽衣の滝に「客寄せパンダ」としての魅力はあるのか
大雪山国立公園特別保護地区にある美しい濃青色の忠別川に沿った河畔林の中の遊歩道を歩いて行くと、日本の滝100選のひとつに選ばれた「羽衣の滝」があるのです。
「羽衣の滝」までは500mの遊歩道を歩いて行きます。
右手には濃青色の忠別川の水が岩に当たり乳白色に泡立ちながら流れて行きます。
水の流れが少ない場所では、よりその青の濃さと複雑さを知ることが出来ます。
葉の落ちきった広葉樹と、無骨な岩肌に降り積もった真っ白な雪、そしてダムから流れ落ちる水音が尚更静寂を切り出し、都会の喧騒から離れて孤独なまでに大自然の中に現代人が置き去りにされているのだと実感させてくれます。
厳しい北海道の大自然の中で背筋を伸ばし続けて来た逞しい木々です。
岩肌だらけの地盤にも根を張れる事を教えてくれます。
厳しい社会の荒波に揉まれ続けて折れかけた人々の心に象徴的に訴えかけて来るものがここにはあります。
いよいよ「羽衣の滝」が見えました。
落ち続ける滝と流れ続ける川、聳え立つ岩肌と逞しい木々達。
無駄のない大自然の理の中では、遊歩道のような人工物に不思議な安堵感を覚えます。
我々人類はやはり大自然の中では異物なのだと思い知らされました。
白く糸状に分かれて流れる滝は確かに羽衣のようでした。
物語では、水を浴びる美しい天女を帰すまいと男は羽衣を隠してしまいますが、最後は彼女の幸せを願って羽衣を返すのです。
私も最初はこの美しい景色を独り占めしようと思いました。
「誰も訪れないこの場所で、いつか満点の星空が輝く夜空を一人で寝そべって眺めようか。」
だけど一番は、多くの人々に私と同じ気持ちを味わってもらう事だと思い直しました。
私もこのブログを通じて羽衣を返す事にします。
たすきのように多くの人々にここの魅力が伝わり、私と同じように天女の物語に思いを馳せる事を願います。
私は今回、新しい試みとして動画を貼ってみましたので是非みて下さい。
ドローンを使って「羽衣の滝」に迫り滝壺を覗いてみました。
足で行けない場所にドローンを操縦して飛ばすのは非常に緊張しましたが、それなりに上手く撮れたと思います。
ちなみに今回使用したドローンはこちらです。
「羽衣の滝」の先の道、「敷島の滝」へと続く登山道は現在は開通していませんが、この先には更なる魅力が広がっている事でしょう。
昼間は厳しくも美しい大自然の色彩の中に溶け込み、夜は美味しいご飯を食べてから源泉掛け流しの温泉に浸かり、そして満点の星空を見上げてみたくはありませんか。
きっとその日は川のせせらぎの中で、人によってはいつしか忘れてしまった幸せな深い深い眠りにつける事でしょう。
その眠りの中で、大自然に畏怖の念の抱き、異物であるかのように感じてしまったはずの我々も、実に大自然の一部であったと気付ける事でしょう。
これだけの想像を膨らませて来る程にここは魅力のある場所でした。
現在でも旅館「御やどきしま荘」を利用すればこの様な体験は出来ると思いますが、より多くの人が気軽に訪れられるように再発展する日が来る事を願っています。
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