ラム肉食べ太郎 行きて帰りし物語(小平町・留萌市)

冒険

 ラム肉食べ太郎 行きて帰りし物語(幌加内町)の続きである。

 「ああ、海だ」広く広く見渡す限り空も海も輝いている。深い山々を抜け、日本海へと出たのである。ここはオロロンライン。道央と道北を結ぶ日本海沿いの道である。海沿いは風が強く、大きな風車が沢山生えている。新たな旅が今始まる。

 ネモ船長のノーチラス号をご存知だろうか?ジュール・ベルヌの小説「海底2万マイル」に出てくる潜水艦である。海洋学者のアロナクス教授と助手のコンセイユは、しばしば船乗りの前に姿を表すそれを、巨大な海の生物(一角獣)だと勘違いして捜査にの乗り出す所から物語は始まる。

 私ラム肉食べ太郎も、海面に巨大な尾鰭を見た。その正体を見極めるために、車を降りて海岸へと足を運んだ。

 ちなみに、1954年にディズニーによって実写化された、映画「海底2万マイル」は、今でも十分に通用する見応えがあり、ディズニーの独特な世界観が見事に表現されているので、機会があれば是非観て欲しい。少年時代のラム肉食べ太郎は、大好きな小説の世界と、映画の世界が見事にリンクした当時の感激を良く覚えている。

 やがて、東京デズニーシーに、プロメテウス火山を中心としたジュール・ベルヌの作品の世界「ミステリアス アイランド」が出来たりと、世界は私を感動させて止まない。私の冒険への憧れと行動は、これらの幼少期の体験によって構築されたと言っても過言ではないのだ。

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 その海洋生物の正体は、巨大な岩であった。まるで右向きに泳いでいる巨大なサメのように見えるではないか。このサメの目線から見た海面と陸地は美しかった。海鳥の足跡が波に拐われては消えて行く。

 ラム肉食べ太郎は浜辺に捕らわれた。美しい景色のためだけではない。帰り道がなかったのだ。巨大な海洋生物の正体を見極めるのに夢中で、途切れた階段を飛び降りるのに躊躇しなかったのだ。いざ戻ろうとして、簡単には上がれない高さであることに気が付いた。

 もし雪が階段を覆っている時期だったなら、本当に戻れなくなっていたかも知れない。濡れて滑る階段に手をかけ、金属の骨組みに足を引っ掛けて、一気に身体を持ち上げた。もし、こんな場所で遭難したら末代までの恥である。

 ラム肉食べ太郎は「ゴミ」が嫌いである。人間の醜さを感じるからである。遺構は違う。そこには歴史がある。すなわちロマンがある。しかし海岸に流れ着いた「ゴミ」に宿る物語は、ただの人間の醜態である。潮の流れのせいだろうか。小平町のある海岸はゴミに埋め尽くされていた。プラスチック片にビニール紐、瓶、電球。何でもあった。人類の課題がここに散らばっている。

 遠くに見える、ゴミだらけの海岸に設置された日時計のオブジェは、現在の時間ではなく、人類に残された時間を示しているのかも知れない。ラム肉食べ太郎は、あまりの悲しい景色にそう感じてしまった。

 小平町を後にし、やがて留萌市へと辿り着いた。朝に旭川市を出て以来の「市」である。ここには、街と街を繋ぐ大動脈であるJRの駅がある。留萌駅である。しかしこの路線は動脈硬化を引き起こし、バイパス手術(バス置換)を余儀なくされている。

 2016年12月にJR留萌本線の留萌駅〜増毛駅間が廃止され、現在も運行が続いている留萌駅〜深川駅も廃止が取り沙汰されているのが現状である。

 昭和の香りが漂う古びたこの駅が改装される可能性よりも、使われなくなってしまう可能性の方が高いだろう。多くの大人にとって、子供の頃には当たり前だった景色も、時代と共に次第に移ろい行き、歴史と共に忘却の彼方へと消え去ってしまうのだ。今のこの景色を良く目に焼き付けておこうと思った。いつかは必ず見れなくなってしまうだろうから。

 留萌の黄金岬は名前に負けない。ここの景色は恐らく不変だ。人間の寿命より、コンクリートで出来た人工物よりも遥かに長く、ここで同じ姿を見せ続けて来たのだ。そしてこれから先もそれは変わらない。

 だいぶ陽が傾いて来たので、この後は旭川への帰路に着いた。その途中で、廃線となった留萌駅〜増毛駅間を結んでいた、JR留萌本線のトンネルを覗ける場所があった。もちろん立ち入ることは出来ないが、金網の隙間から綺麗に撮影することが出来た。この空虚な穴にはもう電車の音が響くことはない。

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